00 / ARCHIVE DESCRIPTION
記録物品について
本資料は、北リュカ市中文芸資料係によって束ねられた、公開象意詩朗読に関する小資料群の保管写しである。
原束には、茶屋の壁に貼られていた催し札、茶屋帳面に挟まれていた控え紙、児童練習帳の切取、詩句を書き留めた端紙が含まれる。
資料係による注記は、各紙片の余白および末尾整理紙に残されている。本稿では、それらを文芸係注として転記する。
境界層アーカイブでは、本資料を術式記録ではなく、市中における象意詩の受容を示す文化断章として保管する。
01 / RECORD SHEET
記録表
RECORD SHEET
記録表- 記録機関
- 北リュカ市中文芸資料係
- 整理者
- 市中文芸資料係 朗読紙片担当
- 原記録区分
- 市中象意詩朗読 関連紙片束
- 収集地
- リュカ市西通り 井戸広場付近 / 茶屋《石鳴り亭》周辺
- 収集資料
- 催し札 / 茶屋帳面控え / 児童練習帳切取 / 詩句端紙
- 演目名
- 《薄風は戸口で待つ》
- 読み手
- 詩術者 ラウネ・フェル
- 保管写し
- 境界層アーカイブ・文明文化断章棚
02 / NOTICE SHEET
催し札
以下は、茶屋《石鳴り亭》の壁に貼られていた催し札の写しである。
紙面上部には雨に濡れたあとがあり、左右の角には木釘で留めた穴が残る。
NOTICE SHEET
催し札本日、夕刻 井戸広場の灯が入るころ 象意詩の朗読あり 演目 《薄風は戸口で待つ》 読み手 詩術者 ラウネ・フェル 場所 西通り 井戸広場わき 石鳴り亭の前あたり 通りがかりの方もどうぞ 荷を置かず、そのままで構いません 子どもは前へ 背の高い方は少し後ろへ 茶は各自 席代なし
札の下端には、別筆で以下の書き込みがある。
雨なら軒下。 強く降るなら中止。
03 / TEAHOUSE LEDGER SLIP
茶屋帳面控え
以下は、茶屋《石鳴り亭》の帳面に挟まれていた控え紙の写しである。
表面には茶代と仕入れの控えがあり、下半分に朗読会当日の覚え書きが残る。
LEDGER SLIP
表面麦茶 八杯 温め直し 二 豆菓子 小皿五 燈油 半瓶 夕方、雨あがり。 石がまだ濡れていて、外の腰掛けは出さず。 井戸のほうで詩を読むというので、客が入口で止まる。 茶を持ったまま聞く者あり。 読み手はラウネ・フェル。 細い声。 大声ではない。 それでも、通りの反対側まで聞こえた。 《薄風は戸口で待つ》という題。 一つ目のところで、布屋の娘が笑った。 二つ目のところで、荷運びの男が黙った。 三つ目のところで、子どもらが息を止めていた。 終わったあと、豆菓子が一皿余ると思ったが、余らず。
紙片裏面:
LEDGER SLIP
裏面詩のあと、店の中が少し涼しいと言う客あり。 戸は開けたままだったので、ただの風かもしれない。 ただ、あの声のあとだと、同じ風でも少し薄く聞こえる。 今夜は戸口の砂を掃かずにおく。
04 / CHILD'S COPYBOOK
子どもの練習帳切取
以下は、児童用練習帳から切り取られた一枚である。
表には文字練習、裏には朗読会で聞いたと思われる詩句の書き写しがある。 紙面には、同じ語を何度も書き直した跡が見られる。
COPYBOOK
表面こぐち こぐち こぐち うすい うすい うすい かぜ かぜ かぜ
COPYBOOK
裏面うすいかぜは こぐちでまつ はいってこない でていかない おかあさんのそでを すこしだけさわる まだだよと だれかがいう
「こぐち」の右に、大人の筆跡で小さく訂正がある。
とぐち
05 / POEM SCRAP
詩句端紙 一
以下は、別紙に書き写された詩句である。
紙の上端が破れており、冒頭部は欠けている。
POEM SCRAP
詩句端紙 一……薄い風は、戸口で待つ。 家の中を知らないまま、 道の名を覚えないまま、 濡れた石の匂いだけを連れて、 夕方の袖に触れる。 入れと言われれば、軽すぎて、 出ろと言われれば、近すぎる。 だから風は、 返事をせずに、戸口で待つ。
端紙下部の書き込み:
ここで少し間があった。 誰も拍手しなかった。 拍手しないのがよいのか、忘れたのかは分からない。
06 / POEM SCRAP REVERSE
詩句端紙 二・裏書き
同じ紙片の裏面には、別の人物によると思われる短い書き込みがある。
本文より筆圧が強く、急いで書かれている。
REVERSE NOTE
裏書きあれは術ではない。 少なくとも、風を呼んではいない。 井戸の水面も動かず、吊るした布も揺れなかった。 けれど、帰り道で皆が少し黙った。 茶屋の婆さんは、昔の港の話をした。 荷運びは、北門の坂は今日も風が抜けると言った。 子どもは、戸口に立って、入らない風の真似をした。 術ではないなら、何なのか。 詩と言われれば、それまでだが、 ただの詩なら、どうして帰る道が少し変わる。
07 / BUNDLE NOTE
市中文芸資料係 整理紙
BUNDLE NOTE
整理紙西通り古紙組合より受入。 茶屋帳面、催し札、児童練習帳切取、詩句端紙を一束とする。 演目名: 《薄風は戸口で待つ》 読み手: 詩術者 ラウネ・フェル 分類: 市中象意詩 / 公開朗読 / 風象 / 生活文化資料 備考: 発動記録なし。 異常報告なし。 術式資料としてではなく、市中文芸資料として保管。
整理紙裏面:
BUNDLE NOTE
裏面詩句の全文復元は行わないこと。 児童写しの語を、原詩へ補わないこと。 端紙の欠けを、既知詩形で埋めないこと。 本資料の価値は、正しい本文ではなく、朗読が人々の側にどう残ったかにある。
ARCHIVE ADDENDUM