00 / ARCHIVE DESCRIPTION
記録物品について
本記録物品は、リュカ市南水路区・生活術士詰所に残された定例巡回控えの写しである。
記録には、記録票、巡回路記入、携行品控え、住民申告控え、見習い聞き取り控え、巡回中の短い会話、巡回後記入が含まれる。
本文中の術的補助は、いずれも小規模な環境調整、通行補助、応急処置補助に留まる。
01 / RECORD SHEET
記録表
RECORD SHEET
記録表- 記録機関
- リュカ市南水路区・生活術士詰所
- 記録表記入者
- 巡回生活術士 / サリカ・ノル
- 巡回補助見習い
- トマ・リオル
- 使用場所
- リュカ市南水路区 一番水路、市場裏、共同炊事場、石畳通り、施療小屋前
- 原記録区分
- 生活術士 定例巡回控え
- 保管写し
- 境界層アーカイブ・生活術式資料棚
02 / ROUTE NOTE
巡回控えについて
本控えは、南水路区で行われた定例巡回の写しである。
紙面には、住民から寄せられた短い申告、巡回生活術士サリカ・ノルによる所見、 現地で行われた軽度の術的補助が記されている。
欄外には、巡回補助見習いトマ・リオルによる聞き取り控えと見られる問答が挟まれていた。
筆跡はおおむねサリカによるものと見られるが、一部にトマの書き込みが混じる。 余白の訂正線、濡れ跡、土粉の付着はいずれも原資料に残る。
03 / ROUTE SHEET
巡回路記入
ROUTE SHEET
巡回路記入巡回目的
- 南水路区における日常環境の確認、および軽度の術的補助。
巡回範囲
- 水路沿い / 市場裏 / 共同炊事場 / 石畳通り / 施療小屋前 / 市門脇広場
巡回時に見るもの
- 住民からの申告
- 通行の妨げ
- 水の戻り方
- 熱のこもり方
- 風の抜け方
- 臭いの変化
- 軽い怪我人の有無
- 常設術式の摩耗
巡回方針
- 大きな改変は行わない。
- 暮らしが止まっている箇所を見つけ、通る、炊く、洗う、休む、運ぶことに支障が出ない程度まで整える。
- 常設術式、施療士の処置、商家の保存術式には、許可なく手を入れない。
04 / CARRIED ITEMS
携行品控え
CARRIED ITEMS
携行品控え携行品
- 小型冷却符:三枚
- 小風符:二枚
- 吸水布:一巻
- 止血布:二枚
- 白墨:一本
- 木炭筆:一本
- 簡易水分計:一具
- 記録板:一枚
使用制限
- 冷却符は仮留めのみ。
- 小風符は張り替え一枚まで。
- 吸水布は通行路の水筋処理に限る。
- 止血布は施療士への引き継ぎまでの補助に限る。
- 常設術式の再刻印は行わない。
05 / RESIDENT REPORTS
住民申告控え
以下は、巡回中に受けた申告と、巡回者による所見・処置の控えである。
申告 01
住民申告控え- 申告者
- 魚屋裏手の店番
- 場所
- 市場裏
「朝になると、桶の水がぬるい。昨日も今日も、魚が嫌がってる」
巡回者所見
- 桶そのものに異常なし。
- 市場裏の壁に熱が残っている。
- 共同炊事場側の排熱が、夜間に市場裏へ抜けている疑い。
処置
- 壁際に小型冷却符を一枚仮留め。
- 炊事場側の排熱口を次巡回で確認。
- 桶の保存術式には触れず。
朝番に、桶の水温と魚の動きを聞くこと。
申告 02
住民申告控え- 申告者
- 路地奥の香草売り
- 場所
- 香草売り裏路地
「奥の風が重い。煙が出ていかない」
巡回者所見
- 路地奥に煙抜け不良あり。
- 香草干し棚と洗濯紐二本が低く張られ、風の通り道を狭めている。
- 壁面の小風符に摩耗あり。
処置
- 小風符を一枚張り替え。
- 洗濯紐を店側へ寄せるよう伝達。
- 煙抜けの確認は夕刻に再訪。
雨後に同じ申告が出るか確認。
申告 03
住民申告控え- 申告者
- 水路沿いの荷運び
- 場所
- 水路沿い石畳
「石の間から、また水が戻ってる。踏むとぬるっとする」
巡回者所見
- 水路沿いの石畳の目地から、細く水がにじんでいる。
- 水路本流の溢れではなく、前日の雨水が石下に残ったものと思われる。
- 荷車の車輪跡に薄い水筋あり。
処置
- 通行中央の水筋を吸水布で除去。
- 水路側へ白墨で仮印。
- 石畳の持ち上げは行わず、石工番へ伝達。
乾いた日に同じ箇所へ水が戻るか確認。
申告 04
住民申告控え- 申告者
- 共同炊事場 昼番
- 場所
- 共同炊事場裏
「壁がいつまでも熱い。夕方まで背中が暑い」
巡回者所見
- 炊事場裏の石壁に熱残りあり。
- 火床の残熱ではなく、壁内の蓄熱と見られる。
- 昼番二名に疲労感あり。
処置
- 冷却符を壁の外側に一枚仮留め。
- 火床の常設術式には触れず。
- 炊事場長へ、夕刻後の壁温確認を依頼。
冷却符を外した後、熱が戻るまでの時間を記録。
申告 05
住民申告控え- 申告者
- 施療小屋前の待合番
- 場所
- 施療小屋前
「冷やし布が足りない。あと、転んだ子が泣きやまない」
巡回者所見
- 子ども一名、右膝に擦過傷。
- 出血は少量。施療士は別患者の処置中。
- 待合に熱がこもり、泣き声で周囲が落ち着かない。
処置
- 止血布で出血を押さえる。
- 冷却符は使用せず、濡らした布で膝周辺を冷やす。
- 施療士へ引き継ぎ。
- 待合入口の布掛けを半分上げ、風を通す。
施療小屋前に冷やし布の予備があるか確認。
06 / APPRENTICE QUERY
見習い聞き取り控え
APPRENTICE QUERY
トマ・リオル 手控え以下は、巡回補助見習いトマ・リオルの手控えとして、巡回控えの末尾に挟まれていた短い問答である。 一部、巡回中の会話を後から書き留めたものと見られる。
……いまの、見ました?
見た。
滑ってません。
滑った。
足が、少し遅れただけです。
それを滑ったと言うんだよ。
……記録に残します?
残す。
えっ。
いい記録だから。立って見るより、転びかけた方が分かる水筋もある。
それ、慰めですか?
半分は。
もう半分は?
次は滑る前に見つけろ、という話。
07 / STREET EXCHANGE
巡回中の短い記録
STREET EXCHANGE
市場裏- 場所
- 市場裏
- 状況
- 冷却符の仮留め中
それ、氷になるやつ?
ならない。触らないで。
ちょっとだけ!
ちょっとでもだめ。
指先だけ冷やしたいなら、井戸水の方が早いよ。
じゃあ、それ何のため?
魚屋の桶を、朝からぬるくしないため。
魚のため?
半分は魚のため。
もう半分は?
魚屋が怒らないため。
そっちの方が大事そう!
大事だよ。
08 / END-OF-ROUND NOTE
巡回後記入
END-OF-ROUND NOTE
巡回後記入本巡回で確認した主な異常
- 市場裏の熱戻り
- 路地奥の煙抜け不良
- 水路沿い石畳の水筋
- 炊事場裏の壁熱
- 施療小屋前の冷やし布不足
本巡回で行った処置
- 冷却符 仮留め二箇所
- 小風符 張り替え一箇所
- 吸水布 使用一箇所
- 止血布 使用一枚
- 白墨仮印 一箇所
引き継ぎ先
- 共同炊事場長
- 石工番
- 施療小屋待合番
- 次巡回 朝番
南水路区は、直すところより、戻りすぎるところが多い。
水も、熱も、煙も、人の声も、少しずつ余る。
余ったものを全部消すと、次の暮らしまで細くなる。
通れる程度、炊ける程度、休める程度。
そのあたりで止めること。
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