00 / ARCHIVE DESCRIPTION
記録物品について
本記録物品は、リュカ郡立魔術学院・水象課程で使用された媒介比較実習票と、担当導師の授業所見を綴じたものである。
実習では、実習室の共用教材である三種の媒介を順番に使用した。扱う水は、小水盤一杯分であり、水象課程の学生であれば媒介なしでも一つの流れにまとめて移動制御できる量とされる。
前半では三種すべてで同量の水を受け皿へ移し切り、後半では水を三本へ分け、外側二本を動かしたまま中央だけを一時停止して再開した。
実習者は、前半で最も扱いやすかった媒介と、後半の仕上げ練習で使用した媒介に、異なる名前を記入している。
01 / RECORD SHEET
記録表
RECORD SHEET
記録表- 記録機関
- リュカ郡立魔術学院・水象課程
- 原記録区分
- 媒介比較実習票
- 授業
- 基礎実習・第三時限
- 実習者
- リネア・セド
- 担当導師
- ガルド・メイン
- 実施場所
- リュカ郡立魔術学院・第二媒介実習室
- 使用物
- 実習室共用媒介 三種
- 使用水量
- 小水盤一杯分(基礎課程の学生が媒介なしでも移動制御できる量)
- 前半の比較項目
- 流れの輪郭 / 飛沫 / 操作に必要な集中 / 手指へ返る感覚
- 選定の範囲
- 授業後半の仕上げ練習で使用する一本
- 授業終了時
- 三種すべて実習卓へ返却
02 / CANDIDATE SET
白布の上の三種
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 01 / 06
第三時限、第二媒介実習室の石机には、三つの共用教材が白布の上へ並べられていた。
一つ目は、淡い青の多面結晶を先端に抱いた細杖である。杖身には先端から握りまで一本の銀線が通っている。実習票の名称は、青晶導水杖。
二つ目は、掌に収まる三つの銀輪である。輪は同じ中心を持たず、少しずつずれた位置で重なっている。実習票の名称は、三環銀輪。
三つ目は、薄い灰色の釉を掛けた短い土杖である。握りには三本の浅い溝が刻まれている。実習票の名称は、灰釉溝杖。
机の向こうには小水盤が一つ、二歩先には受け皿が一つ置かれ、その間へ銅輪が吊られていた。
前半課題は、小水盤の水を一つの流れにまとめ、銅輪を通して受け皿へ移し切ることだった。
移せる量を競う課題ではない。
三種を使ったとき、同じ水がどのような形で動き、どの程度の集中を要し、手へどのような感覚を返すかを比較する。
03 / FIRST COMPARISON
前半課題の比較
狭い画面では横方向へスクロールできます。
| 共用媒介 | 水流の状態 | 操作感・集中負荷 | 手指へ返った感覚 | 実習者の記録 |
|---|---|---|---|---|
| 青晶導水杖 | 一本の滑らかな流れ。飛沫はほぼない | 少ない集中で輪郭を保てる | 冷たさが一定。引っ掛かりはない | 最も楽に扱える |
| 三環銀輪 | 途中で三筋へ分かれようとする | 一つの流れへ戻すため注意が必要 | 鋭い振動が三回 | 単純移動には反応が多い |
| 灰釉溝杖 | 一本にまとまるが、流れの縁が細かく揺れる | 手元へ注意を割く必要がある | 三本の溝から別々の鈍い脈 | 状態は分かるが落ち着かない |
前半記入欄
- 前半課題で最も扱いやすかった媒介
- 青晶導水杖
- 理由
- 小水盤の水を一本の流れとして保ちやすく、飛沫がほとんど出ず、手元へ注意を割かずに済んだ。
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 02 / 06
リネアは続く「後半の仕上げ練習で使う媒介」の欄にも、青晶導水杖と書こうとした。
「三つとも水は全部移せました。でも、青晶導水杖が一番楽です。後半も、これでいいと思います」
「後半の課題はまだ話してない。今の欄には、『一つの水流を運ぶ課題で最も扱いやすかった媒介』と書いておけ」
リネアの鉛筆が、次の欄の手前で止まった。
「え、後半は別の基準で選ぶんですか」
「課題が変われば、媒介に求める働きも変わる。三種をもう一度比べてから決めろ」
04 / SECOND TASK
三本へ分け、中央だけを止める
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 03 / 06
ガルドは一つだった受け皿を三つへ分けた。中央の皿だけが半歩奥へ置かれた。
水盤と受け皿の間には、三つの銅輪が異なる高さで吊られた。
後半課題は、同じ小水盤の水を三本へ分け、それぞれ別の銅輪へ通すことだった。
外側二本は動かし続ける。中央だけを二呼吸止める。二呼吸後、中央も再び動かす。
リネアは、前半で最も扱いやすかった青晶導水杖を握った。
水はすぐに三本へ分かれた。三本とも輪郭が滑らかで、飛沫も出ない。
中央を止めようとしたとき、外側二本が内側へ寄った。
三本は中央で触れ、一つの太い水流へ戻った。そのまま奥の受け皿へ落ちた。
水自体は、すべて受け皿へ移っている。
ただし、三本を別々に保つことも、中央だけを止めることもできていなかった。
「あれ、戻った?」
リネアは杖を下ろし、空になった左右の受け皿を見直した。
「中央を止める条件は入れたか」
「はい。中央だけ、二呼吸止めるつもりで……」
「三本が戻る前、杖から何か返ったか」
リネアは青晶導水杖を握り直した。冷たさは一定で、発動中に引っ掛かりを覚えた記憶はない。
「……いえ。何も感じませんでした。受け皿を見たときには、もう三本がつながっていました」
「なら、気付いたのは合流した後だな」
「はい」
ガルドは、実習票の青晶導水杖の欄へ短い注記を加えた。
後半課題: 三本が一つへ合流 本人が気付いた時点: 合流後、目視 発動中の警告感覚: 申告なし
「青晶は、少ない負担で流れを一つにまとめる。前半では、それが助けになった」
ガルドは、中央の受け皿を指した。
「今は逆だ。足りない条件まで、違和感なくまとめた」
リネアは、杖先の青い結晶を見た。
「楽に動かせた分、途中の失敗が分からなかった……」
「そういうことだ。次は、どこで崩れたか自分で分かる媒介を選んでみろ」
05 / PRACTICE CHOICE
仕上げ練習で使う一本
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 04 / 06
第三時限の残りは、同じ後半課題を繰り返す仕上げ練習だった。
学生は三種の共用媒介から一本を選び、授業終了まで使用する。
リネアは三環銀輪を持ち上げた。
三つの輪を親指で順に押すと、短い振動が三回返った。
水を三本へ分けると、それぞれの輪郭は青晶導水杖より独立して保たれた。
しかし、どの振動が左、中央、右の水流に対応するか、リネアには区別できなかった。
リネアは三環銀輪を白布へ戻し、灰釉溝杖を握った。
三本の浅い溝が、親指、人差し指、中指の下へ別々に当たった。
灰釉溝杖でも、小水盤の水は三本へ分かれて受け皿へ向かった。
青晶導水杖ほど輪郭は滑らかではなく、三本の太さも揃わない。手元へ返る感覚も強い。
リネアが中央を止めようとした直前、人差し指の下だけに乾いた振動が返った。
三本の水は、まだ合流していなかった。
「っ、今の……」
リネアは発動を止め、すべての水を水盤へ戻した。
「なぜ止めた」
「人差し指の下だけ、ざらっと振動しました。中央の水流に対応している溝です。合流する前に止めた方がいいと思って」
「何が足りなかった」
リネアは三本の溝へ指を置き直した。
「中央を止めることしか考えてませんでした。外側二本が動いているあいだ、中央をその場に留める条件がないです」
「今分かったことを入れて、もう一度やってみろ」
再開後、三本の水は別々のまま進んだ。
中央は銅輪の前で止まり、小さな雫の列となってその場へ留まった。
「……止まった。今度は中央だけ」
リネアは息を吐きかけ、左右の受け皿を見比べた。
左側は同じ太さで流れている。
右側は、中央を止めた直後から細くなっていた。
「でも、右が細いです。中央を止める方へ意識を寄せすぎました」
「そうだな。停止はできた。右の細りも、今度は自分で見つけた」
ガルドは実習票へ短く書き込んだ。
「今日はそこまで見えれば十分だ。完全な形は次の時間に回せ」
二呼吸後、中央の水流は再開した。
再開直後に一度だけ右へ寄ったが、三本が合流する前にリネアが位置を戻した。
小水盤の水は、三つの受け皿へ分かれてすべて移った。
後半課題は完全な形では終わっていない。
ただし、リネアは停止条件を成立させ、残った偏りを自分で観察している。
06 / REVISED ENTRY
実習票の書き直し
実習票の書き直し
本人記入
- 前半課題で最も扱いやすかった媒介
- 青晶導水杖。一つの水流を少ない集中で保つことができ、飛沫がほとんど出なかったため。
- 後半の仕上げ練習で使う媒介
- 灰釉溝杖。三本の水流のうち、どこで条件が崩れたかを、合流する前に指で確認できるため。
- 残った課題
- 中央の停止中に右側の水流が細くなった。停止条件へ注意を寄せても、外側二本の太さを保てるようにする。
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 05 / 06
「前半で一番扱いやすかったのは、やっぱり青晶導水杖です」
「その評価は残しておけ」
リネアは、二つの記入欄を見比べた。
「はい。でも、後半の練習なら灰釉溝杖を使いたいです。崩れる前に、どの流れが乱れたか分かったので」
「なら欄を分けろ。媒介の性能と、今日の観察目的を一つの順位にするな」
07 / INSTRUCTOR NOTE
担当導師の授業所見
08 / CLASSROOM RETURN
授業終了時の返却確認
返却確認
- 青晶導水杖
- 返却確認
- 三環銀輪
- 返却確認
- 灰釉溝杖
- 返却確認
- 返却先
- 第二媒介実習室・第三実習卓
- 個人持出
- なし
- 返却確認者
- ガルド・メイン
NARRATIVE RECORD
媒介比較実習逐次記録
EDITED FOLIO 06 / 06
終了鐘の後、リネアは灰釉溝杖を白布の左端へ戻した。
青晶導水杖と三環銀輪も、実習開始時と同じ位置へ並べられている。
実習票だけが回収され、三種の媒介は次の授業のために実習室へ残された。
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